資格をすぐに仕事に生かせなかった理由

私はこれまで、心や体を支えるための資格を取ってきました。

上級食育アドバイザーとして食事を学び、マインドフルネスについても専門的に学びました。

娘の翠楽は、疲労回復インストラクターの資格を持っています。

疲労回復の仕事では、食事、睡眠、マインドフルネスが大きな柱になります。

振り返ると、私たちは別々の分野を学んでいたわけではありませんでした。

食べること。
眠ること。
今の自分の状態に気づくこと。

心と体に余裕を取り戻すために必要なこと について、学んできました。

それでも私は、資格を取ったあと、その内容をそのまま仕事にすることができませんでした。

もくじ

「これさえやれば楽になる」とは言えなかった

食事を整える。
睡眠をとる。
呼吸や体の感覚に意識を向ける。
無理をせず休む。

どれも大切な取り組みです。

実際に、それによって楽になる人もいます。

けれど私は、

「 これを続ければ大丈夫です 」
「 この方法を使えば楽になります 」

という伝え方に、強い引っかかりを感じていました。

心や体がしんどいとき、人は早く安心したくなります。

その状態で「 これをやれば楽になる 」と伝えられると、その方法が魔法のように見えることがあります。

  • 食事を正しく整えなければならない
  • 決まった時間に眠らなければならない
  • 毎日きちんと心を観察しなければならない

役に立つはずの方法が、新しい課題になります

できた日は安心するけれど、できなかった日は不安になる。
少し調子を崩すと、方法が間違っていたのか、自分のやり方が悪かったのかと考え始める。

回復のために始めたことが、自分を見張る材料 へ変わる可能性があります。

私は、その危うさを感じていました。

だから、効果のある方法だからこそ、簡単に「 これさえやればいい 」とは言えませんでした。

何に、どう働くのかが分からなかった

もう一つ、大きな疑問がありました。

食事、睡眠、マインドフルネスが大切だということは分かります。

けれど、それぞれが、

  • 人の心や体のどこに働くのか
  • なぜ、それによって考え方や感じ方が変わるのか
  • 同じ方法でも、楽になる人と苦しくなる人がいるのはなぜか

その仕組みを、私は十分に説明できませんでした。

食事を整えれば体調が変わる。
眠れば疲れが取れる。
今に意識を向ければ気持ちが落ち着く。

それだけでは、私が実際に見てきた人たちのしんどさを説明しきれません。

  • 眠っても、起きた瞬間から考え続ける。
  • 休んでいても、頭の中では相手への説明を繰り返している。
  • 食事を整えようとして、食べるものを厳しく管理し、かえって緊張する。
  • 自分の状態に気づこうとして、感情や呼吸を細かく確認し続け、落ち着けていない自分に焦る。

方法は間違っていなくても、使い方によっては疲れを増やしてしまう。

私は、方法そのものではなく、方法が使われるまでの流れを知る必要があると感じました。

ちゃんとやろうとする人ほど、手が出せなくなる

しんどさを抱えている人の中には、何事もきちんと取り組もうとする人が多くいます。

どうせやるなら、正しくやりたい。
中途半端に始めて、失敗したくない。

その気持ちは、とても自然です。

けれど、正しいやり方を重視するほど、始める前から条件が増えていきます

  • 毎日続けられるだろうか
  • 決められた通りにできるだろうか
  • 途中でやめたら意味がないのではないか
  • 自分には向いていないのではないか

そして、ちゃんとやれる自信がないことには、手を出せなくなります

正しい答えを求めるほど、間違える可能性のある行動を避けるようになる

これが、学びや回復の入口に壁ができる一つの仕組みでした。

壁ができるのは、意志が弱いからではなかった

新しいことにチャレンジするのが難しいと感じたとき、行動力がないとか、継続力がない、と見られることがあります。

けれど、実際にはこんな気持ちが背景にあることが多いものです。

  • 失敗したくない気持ちが強い
  • 時間やお金を無駄にしたくない
  • 期待して傷つきたくない
  • ちゃんとできない自分を見たくない

だから、十分に確信が持てるまで動けません。

動けないのではなく、安全が確認できないことには手を出せないのです。

その人にとっては「 始めないこと 」が自分を守る方法になっています

「 とりあえずやってみましょう 」と言われても、その一歩のハードルがとても高く感じる。

私はその心の壁のようなものが、どのように作られるのかを知りたいと思いました。

続けられない人の意志だけが問題ではなかった

生活習慣を変えられないと、努力不足に見られることがあります。

けれど、しんどい人ほど、すでにがんばっています。

  • 疲れていても考える
  • 不安になると説明を増やす
  • 関係が心配になると、自分を後回しにして相手に合わせる
  • 成果が出ないと、努力を足す

休めないのは、休み方を知らないからだけではありません。

止まったら悪くなる気がする。
早く元気にならなければと思う。

だから、休む方法を教わっても、休むことまできちんとやろうとします。

方法を知らないのではありません。
その方法を、安心するための新しい課題にしてしまうのです。

この流れを見ずに方法だけを渡すと、役に立つはずの取り組みが、さらに負担を増やすことがあります。

疲れていると、考え方まで狭くなる

疲れは、体だけでなく考え方にも影響を与えます。

疲れがたまった状態では、いつもなら気にならないことに強く反応したり、物事を悪いほうへ受け取りやすくなったりします。

たとえば、相手からの返事が少し遅れただけでも不安になることがあります。

本当は忙しいだけかもしれませんし、今すぐ理由を決める必要もありません。

それでも疲れて余裕がなくなると、「 何か悪いことをしたかもしれない 」「 嫌われたのかもしれない 」と答えを急ぎやすくなります。

そして不安をなくすために、何度も考えたり、説明を増やしたりします。

ところが、そうして動き続けるほど、さらに疲れがたまります。

本来「 疲れ 」は、休んで回復するためのサインです。

けれど 不安 が強いと、休むより先に問題を片づけようとしてしまいます

その結果、疲れを減らすための行動が、より疲れる行動にすり替わる。

心や人間関係がしんどくなっていく背景には、こうした小さな積み重ねがあります。

最近見えてきたこと

食事や睡眠、マインドフルネスのように、回復に役立つ方法が、なぜ人によっては負担になることがあるのか。

私は長い間、この不可解な現象について考え続けてきました。

そして最近、その理由につながる流れが見えてきたんです。

人は不安が強くなると、まだはっきり分からないことにも、急いで答えを出そうとします。

  • 相手から返事がない
  • いつもと表情が違う
  • 思ったような結果が出ない

その時点では、まだ本当の理由は分かりません。

けれど心に余裕がないと、「 何か悪いことをしたかもしれない 」「 このままでは関係が壊れるかもしれない 」という考えが浮かびやすくなります。

余裕がないときに浮かんだ考えを、まるで事実のように感じる。
すると、この問題を早く何とかしなければと焦り始めます。

謝ったり、説明を増やしたり、相手に合わせたりする。

納得してもらおうと説得したり、反対に突然距離を取ったりすることもあります。

そのとき本人は、目の前の問題に対応しているつもり です。

けれど、まだ確かめられていないことは、あくまで 想像 です

想像から生まれた不安を解消しようとしても、また別の想像が生まれます。
そのたびに考え、確認し、対応を続けていると、不安へ反応する流れそのものが習慣になっていきます

こうして、終わりのない不安と闘い続ける状態 が作られます。

食事や睡眠、マインドフルネスといった回復のための方法も、この不安を早く消すために使うと、役割が変わります。

食事は細かく管理するものになり、睡眠は達成しなければならない課題になる。
自分の状態を見ることも、気づくためではなく、できているかを監視するため に使われます。

方法そのものが悪いわけではありません。

方法を使う前から、心と体が不安対策を続けていたのです。

新しいことに挑戦するときに抵抗を感じる理由

この仕組みは、新しいことに挑戦するときに抵抗を感じる理由ともつながっています。

何かを始めようとすると、「 失敗したらどうしよう 」と不安になることがあります。

不安が強いと、まだ何も起きていないうちから、「 正しくできないなら始めないほうがいい 」「 自信がついてから動くべきだ 」と考えやすくなります。

すると、挑戦することよりも、失敗しないことのほうが大事 になっていきます。

挑戦へのハードルが高くなるのは、能力が足りないせいではなく、失敗を避けようとするうちに、始めるための条件が厳しくなっていることがあります。

ここで必要なのは、無理に自信をつけることではありません。

  • 分からないまま少し試してみる
  • 途中でやり方を変えてみる
  • 続かなかった経験も、次の経験のための土台にする

そうやって、「 思うようにできなくても、大きく崩れなかった 」という経験を重ねることで、自分の中に作られていたハードルは少しずつ低くなっていきます。

私たちの資格を、安心して役立てるために必要なこと

この流れが見えたことで、私と翠楽が学んできたことの意味も変わりました。

大切なのは、マインドフルネスを正しく行うことや、食事や睡眠をきちんと整えることではありません。

それぞれの取り組みが、何のために必要で、心や体にどう働くのか。
その結果、どんな変化につながるのか。

そこまで理解したうえで、自分の状態に合わせて使うことが大切です。

食事は、正しい食生活を守るためだけのものではありません。
空腹や栄養不足によって心や体の余裕を失わないための、生活の土台になります。

睡眠も、毎日きちんと眠れる人になるための課題ではありません。
脳や体の疲れを回復し、物事を落ち着いて見やすくするための時間です。

マインドフルネスは、いつでも穏やかでいるための技術ではありません。
今、自分は余裕を失っている。かなり疲れている。
そうした現在の状態に気づくために使えます。

正しい実践の形を身につけることが目的ではありません。

  • なぜ今、この取り組みが必要なのか
  • どのように取り組むと、自分にとって役立つのか
  • うまくできない日は、何を確認すればいいのか

その意味を自分でつかみながら実践することで、方法に振り回されにくくなります。

心や体をケアする取り組みは、ただ正しく再現すれば効果が出るものではありません。

実践する人が、目的と働きを理解 し、自分の状態を見ながら使う ことで、本来の効果につながりやすくなります。

私が心や人間関係の流れを研究し、翠楽が疲労回復の視点から生活と体の条件を見る。

二人の学びを本当に役立つものにするためには、方法を渡すだけでは足りません。

何のために取り組むのか、今の自分に何が必要なのかを、自分自身で確かめながら使えること

そこまで含めて伝えることが、私たちの資格を安心して役立てるために必要なことだと考えています。

心のケアの技術は、魔法ではない

食事を変えたら、すべての悩みが消えるわけではありません。

眠れば、人間関係の問題が自動的に解決するわけでもありません。

マインドフルネスをすれば、いつでも冷静になれるわけでもありません。

それぞれの取り組みは、問題を魔法のように消すものではありません

  • 食事は、体の負担を減らす
  • 睡眠は、考え続けて狭くなった見方を戻しやすくする
  • 今の状態に気づく時間は、すぐに結論を出さずに済む余白を作る

そうやって、自分で現実を見て選ぶための条件を整える ものです。

効果は、方法だけで生まれるのではありません。

  • どんな状態で使うのか
  • 何のために使うのか
  • できない日をどう扱うのか

そこまで含めて、取り組みの意味が決まります。

回復してから考える、という選択肢

人は問題が起きると、問題を解決してから休もうとします。

けれど、疲れた状態で考え続けるほど、見方が狭くなることがあります。

  • まず食べる
  • 眠る
  • 少し離れる
  • 返信を翌日にする
  • 温かいものを飲む

問題を解決していなくても、先に心と体の負担を下げる

すると、同じ出来事でも違って見えることがあります。

  • 昨日は絶対に無理だと思っていたことが、今日は保留できる
  • 相手が悪いとしか思えなかったことに、別の可能性が見える
  • 自分が全部引き受ける必要はなかったと気づく

心を正しい状態へ直したからではありません。

考えるための余裕が戻ったことで、事実と不安を分けやすくなった のです。

資格を使えなかったのではなかった

資格を取ったのに、そのまま仕事に反映できなかった。
以前は、そう感じていました。

けれど今は、少し違って見えます。

取り組みの価値を十分に生かすために、その方法が苦しさへ変わる条件を研究していたのだと思います

時間をかけて考えてきたからこそ、うまく取り組めない、続けられないという問題が、その人自身の能力のせいではない、とちゃんと伝えられるだけの言葉がまとまりました。

休めない人へ、ただ休みましょうと言わずに済みました。

落ち着けない人へ、落ち着く方法をさらにがんばらせずに済みます。

正しくできる自信がない人へ、まず自信を持ちましょうと迫らずに済みます。

食事、睡眠、マインドフルネスは、人生を一気に変える魔法ではありません。

疲れや不安で見えにくくなった現在地へ戻り、自分の感覚と現実を確かめながら、次の一歩を選ぶための土台です。

私たちは、資格で学んだ方法が、本当に人の力になるために必要な仕組みを、長い時間をかけて探してきました

今、ようやく、その研究と資格を一つの仕事として動かせる場所に立っています。

もくじ